日本紅斑熱の臨床所見と治療

日本紅斑熱を徳島県阿南市で始めて(1984年)発見されました。
日本より世界的に有名と思います。
「死の虫」つつがなきや 小林照幸 中央公論社
大阪駅ルクア9階蔦谷書店でTポイントで購買したつつが虫の幼虫(リケッチヤ)が人間に吸着した場合のみ、感染・発病の可能性が生じる。P237には、馬原先生の日本紅斑熱にも記述されている。2016年10月30日

「あまりにも貪欲な者は虫に咬まれる」との言い伝えが海部郡にあります。但、
野山に立ち入る時は、虫よけスプレーで防除(ローソンで528円で販売中と、
手長木綿のYシャツ・長ズボン・靴下で皮膚を覆いましょう。
たけしの本当はこわい家庭の医学(実際の症例を参考)馬原先生の講演

野山に立ち入り4名が本症で病勢が急激に悪化し、1名重篤・1名死亡・2名軽症者を出した。以下詳細 赤字が注意事項です。マダニも、この時期卵をかかえており、刺しにきます。
更に詳しい日本語の総説 これは馬原先生ご自身が自験例34例についてお書きになった総説です.

海の総合文化センター
 感染症のお話
(昨年5月3日に、感染症罹り、重篤より、四苦八苦から生還された「木内和美(元教師)先生」を、人間の立ち入りを拒む自然が、症例を話しさせる役割の人選をしたように思います。
 日和佐保健所・牟岐町保険福祉課 2005年3月12日
経過
DOA(DEAD ON ARRIVAL)由岐町立病院から救急車搬送時、阿南共栄病院(羽ノ浦町)
○ 重篤 県立海部病院 入退院後、馬原先生のアドバイスにて処置後退院。
○ 軽症者 馬原病院にて処置。
たけしの本当はこわい家庭の医学と馬原先生の講演

Mahara F. Japanese Spotted Fever: Report of 31 Cases and Review of the Literature. Emerging Infectious Diseases 3(2):105-111, 1997.

日本紅斑熱の発見者,馬原文彦先生の総説である.1984年から1995年まで144例が届けられている.同じリケッチア症であるつつが虫病との比較で臨床症状を考えると,この病気を理解しやすいだろう.つつが虫病と比較すると,

  • 紅斑はほぼ必発である.特に手掌紅斑が特徴的である.つつが虫病では紅斑が手掌に出現することはまずない.
  • 刺し口はつつが虫病の場合よりも小さい.中心部の黒色壊死も目立たない.
  • リンパ節腫脹はつつが虫病よりも頻度が低い.
  • 4月から10月にかけて発生する;関東以南ではつつが虫病は10月から1月にかけて発生するので,診断する上で季節は極めて重要と言える.つまりつつが虫病が起こり得ないような時期につつが虫病のような病気を見たら日本紅斑熱を疑わなくてはならないということだ.
  • 本症はこれまでに,千葉,神奈川,三重,和歌山,兵庫,島根,徳島,高知,宮崎,鹿児島などで確認されている.つつが虫病が全国区の病気であるのに対して,西南日本に多い印象だが,まだ,認識が低い地域もあり,それ以外の地域でも見逃されている可能性がある.
  • 診断は免疫ペルオキシダーゼ法あるいは免疫蛍光法で行う点はつつが虫病と同じ.
  • テトラサイクリン系が第一選択であることもつつが虫病と同じである.

臨床所見:1984年〜1998年12月までに徳島県で発生した34例の日本紅斑熱患者の臨床像について記載する。

症例は男性10例、女性24例。年齢は4〜78歳、しかし、大部分(82%)は50〜70歳であった。

野山に立ち入りマダニと接触の機会の後2〜8日で発症している(潜伏期)。

本症は定型的には急激に発症し、頭痛28例(82%)、高熱34例(100%)、悪感30例(88%)を訴える。また、特徴ある紅斑34例(100%)やマダニによる刺し口(eschar)31例(91%)を認める。ほとんどの患者は強い倦怠感31例(91%)、ときに関節痛、筋肉痛、四肢のしびれ感などを訴える。

他覚的所見としては、高熱、発疹、刺し口が3徴候である。急性期には悪感を伴う高熱があり、熱型は弛張熱である。重症例では40℃を超える高熱が数日持続する。病気の経過中の最高体温は、38.5℃〜40.8℃(平均39.5℃)で、ツツガムシ病の最高体温が38.5℃〜39.1℃と報告されているのに比してやや高く重症感がある。

突発的に、または2〜3日不明熱が続いた後に、高熱とともに特徴的な紅斑が手足、手掌、顔面に出現する。米粒大〜小豆大の辺縁不整の紅斑で痛みやかゆみを伴わないのが特徴で、初期にはガラス圧により消退する。この紅斑は数時間で全身に広がるが、体幹部よりは四肢に多い傾向にある。手掌部の紅斑はツツガムシ病では見られない本症に特徴的な所見であるが、数日間で消失するので注意を要する。

本症の紅斑(図2)は3〜4日目頃から一部出血性となり、1週間〜10日目位をピークとし、2週間位で消失する。しかし、出血斑の強い症例では褐色の色素沈着が約2カ月間またはそれ以上残ることがある。

マダニによる刺し口(eschar)(図3)は、手、足、頸部、体幹部等に認められた。刺し口は通常1〜2週間認められるが、小さく浅い刺し口の症例では数日間で消失した。日本紅斑熱の刺し口は、ツツガムシ病のそれに比して一般的に小さく見落としやすいので、注意深い観察が必要である。

その他の所見として、ツツガムシ病のほとんどの症例でみられる所属リンパ節または、全身リンパ節の腫脹は日本紅斑熱ではみられないことが多く、肝・脾の腫脹も少ない。その他、1症例では心臓の肥大を認めた。また、他の地域の症例で、中枢神経の障害で失神発作を認めた症例や播種性血管内凝固症候群(DIC)と多臓器不全を併発し硬膜下血腫を起こした症例も報告されている。

検査成績:一般尿検査では、蛋白、潜血、軽度陽性。血液検査では、赤沈は中等度亢進、白血球数は(3,600〜12,800)とばらつきがあるが減少傾向にあり、比較的好中球増多と核の左方移動が著明である。血小板数も減少傾向にあり(6.8〜35.3X104)、重症例ではDICとなる。CRP強陽性、肝機能(トランスアミナーゼ)の軽度障害がみられる。

日本紅斑熱に特徴的な一般検査所見は乏しいが、臨床症状に比してCRP強陽性、血小板数減少が著明な時には本症を疑う。また、病初期の尿所見から尿路感染症との鑑別が必要である。皮膚生検では紅斑部の壊死性血管炎の病変を示す。

治療:熱性疾患に一般的に使用される抗生物質、ペニシリン剤、βラクタム剤、アミノグリコシド剤等は本症には全く無効である。しかし、ドキシサイクリンやミノサイクリンは著効を示す。

試験管内における各種抗生物質の感受性をみると、R. japonicaに対して最も感受性が高いのはミノサイクリンで、次いでその他のテトラサイクリン系薬となっている。一方、βラクタム剤やペニシリン系薬は全く無効か極めて低い。しかし、ニューキノロン薬はツツガムシ病リケッチアには感受性が無いが、日本紅斑熱リケッチアには感受性を有している。最近、日本紅斑熱の重症例(DIC併発)でミノサイクリンでは治療効果が十分得られず、ニューキノロン薬を併用し治癒せしめた症例を経験した(図1)。リケッチア症の第一選択薬がテトラサイクリン系薬であることに変わりがないが、重症例でニューキノロン剤との併用療法が有用であることが立証されたことは重要と思われる。

本症では病勢が急激に悪化するため、血清学的な診断の結果が出る前であっても、リケッチア症を疑った段階で早期の有効治療を開始することが肝要である。

参考文献
1)Mahara F., Emerg. Infect. Dis., 3:105-111, 1997
2)Mahara F., Rickettsiae and Rickettsial Diseases, 233-239, Raoult D. and Brouqui P. ed., Elsevier, Paris, 1999

馬原医院(徳島県阿南市) 馬原文彦先生

人間の寿命は誰にも分からないから、この一瞬・一瞬を切(一生懸命)に生きることです。
「いのちと申すものは」
いのちと申すものは一切の財の中に第一の財なり」
日蓮上人(1222〜1282)「事理供養御書」
戻る